見出し画像

【山都ラボインタビュー】思いの共鳴で、里山を取り戻す。地域と参加者の遊びを通した里山復興:牛島民雄さん

山都町の人材育成事業『チャレンジ・応援!山都ラボ』では、山都町をフィールドに自分でプロジェクトを立ち上げて楽しみながら活動する町内外の方を『プロジェクトオーナー』としてサポートしています。

今回の記事では、令和4年度からプロジェクトオーナーとして参加し、令和5年度も継続してプロジェクトに取り組んでいる牛島民雄さんを取材しました。


プロフィール

名前:牛島 民雄(うしじま たみお)
出身地:熊本市
居住地:合志市
プロジェクト:里山復興プロジェクト『里山都』~山都町の「農業」「林業」「観光業」を楽しく体験~

生まれは熊本市、お住まいは合志市と、生い立ちに山都町へゆかりがあったわけではないという牛島民雄さん。山都町との出会いは、以前奥様が購入していた有機野菜でした。

その有機野菜を生産していた山都町のある農家さんと知り合い、「お米ば作ってみらんね?」と声をかけてもらったことがきっかけで、その後13年間、無農薬・無化学肥料・合鴨栽培のお米作りを手伝うために山都町に通い続けました。その月日の中で、おのずと山都町の自然や人の魅力に惹かれていったといいます。

特に大きかったのは、自分たちが毎年通ってくることを受け入れてくれる集落の方々の存在。交流を深める中で、もっとたくさんの人が山都町へ訪れることで、地域を盛り上げるお手伝いができないかと考えるようになりました。

牛島さん
元々イベントをやろうと思ったのは、田んぼの作業に使う草刈り機や燃料は自腹でやっていたんだけど、もっと他の人たちへ広げることを考えると、自腹だけでやってたら広がらないなと思って。じゃあ何かイベントをやろうと。例えば田植えとか稲刈りもイベントにして、終わった後にみんなでご飯を食べることをやったら、来る人も楽しんでもらえるし、いただいた参加費で他の活動もまかなっていければいいなと。

そんな思いで始めたイベントの数々。今では「無農薬・無施肥のお茶作り」「滝巡り案内・自然散策ウォーキング」「焚き火イベント」など、山都町の農業、林業、観光業にまつわるアイデアを凝らした内容を展開しています。

失われつつある里山を取り戻すために

牛島さんのプロジェクト名『里山都』は、「里山」と「山都町」という言葉をかけ合わせたもの。さらに「里山と(一緒に)」という意味も込められています。

その背景には、お米作りを手伝いながら年数をかけて地元の人たちと交流を深める中で見えてきた、中山間地域・山都町の抱える現実がありました。

牛島さん
7、8年前までは、電柵とか囲いがいらずにお米を作ってたんですけど、今はどこでも獣害が進んでいる。猪の害もすごくひどくなった。少子高齢化で、後継ぎもいないから畑や田んぼがどんどん荒地になっていく。そしたら段々とそこに猪が勢力をのばしてくる。民家と獣が住む森がすぐ接してくるということになって、緩衝地帯の里山がなくなっているという状況が実感としてあります。

中山間地域が直面している様々な問題。人口減少、少子高齢化、耕作放棄地の増加、鳥獣被害…。これらに少しでも対抗するため、山都町の持つ「農・林・観光業」の素晴らしさを町内外の人たちに伝え、実際に体験してもらうことで、地域の活性化から解決の糸口を見つけ出したい。そんな思いでイベントを開催していく中、目に留まったのが「山都ラボ」のオーナー募集でした。

牛島さん
私のイベントの参加者は99%が町外の方でした。外の人を山都町に呼ぼうという趣旨でやっていたからそれもいいんだけど、山都町の人にもっと知ってもらえる手段を考えてた時に「山都ラボ」が目に入りました。町内に周知されることで活動もしやすくなるし、発表や広報の機会があるのはとてもありがたいです。

牛島さんがこれまで行ってきたイベント活動の一部をご紹介します。

<農業> 
・無農薬無施肥のお茶作り
・粉末茶を使用しお菓子等を作り
・地元有機野菜でバーベキュー
・自家製ピザ窯 ピザ作り

<林業>
・行き場のない間伐材を使用したキャンプや焚き火
・筍採り

<観光業> 
・滝巡りウォーキング
・アーチ式石橋巡り 
・親子自然体験

<里山保全活動> 
・使われなくなったお茶畑を整備する里山の境界線作り
・田んぼ跡地を整備する里山保全とイベント拠点作り
・竹林整備の一環とした筍堀り

2023年4月に実施したタケノコ掘りイベントの様子。
イベントを通じて竹山が整備されていく

原動力は、「知ってしまったから」

ご紹介したイベントの中から、令和5年度は「滝巡り」をピックアップして、滝のガイドマップづくりを進めています。

数多くある山都町の「滝」。その中には、地元の方もなかなか訪れない絶景の滝もあり、SNSで話題になったこともあるんだとか。そんな滝をたくさんの方に見てもらうために、安全面にも考慮して安心して行ける滝、おすすめの滝をピックアップして掲載します。滝の撮影は、これまでのイベントで知り合ったカメラの得意な参加者さんにお願いするなど、主催側と参加側が一緒になって作り上げるという点も魅力です。

牛島さん
体験はとっかかりで、そのためのツールの一つが滝巡りです。これをきっかけに山都町に注目が集まって、来てもらって、他にもいろんな体験をしてもらいたい。その先の目的は、自分が山都町で活動するきっかけになった「里山復興」です。

イベント開催やガイドマップ作りを通し、たくさんの人に山都町を楽しんでもらうことで、里山を整備し、保全していく。その強い思いは変わりません。そこまでして牛島さんを突き動かすもの。それは一体何なのでしょうか。

牛島さん
一つはやっぱり「知ってしまったから」。お米づくりをしてみらんねと声をかけてもらって、最初は手伝い程度の関わりだったけど、そこで山都町に出入りすると、自然もいい形ですぐ近くにあるしすごくいいところだなと思って。その一方で、いろんな問題もある。「自分たちは川の上流に住んでるから、農業で流す水を下流に流す時に、少しでもいい水を流そう」と有機無農薬農業をされている生産者さんがいる。そういった様々な思いや問題を体感して、では自分は消費者として何かできるかなと。一つは消費すること、お手伝いで少しでも関わること。そして、他の人にもこの自然をもっと見てもらいたい、紹介してみたいと思ったんです。

農家の方たちと関わる中で、その思いに共感し、受けた感銘。長年通い続けたからこそ、肌感覚で得た現実の課題への向き合い方。それはいつしか、牛島さん自身を消費者としての立場から、自分ごとへと変えていきました。

「よそ者だけではだめ。地元の方が関わることが大事」

そう牛島さんも語るように、バランスの取れた人と人との繋がりの中から、新しい持続的なムーブメントは生まれます。そこにまた思いが共鳴し、展開していく。そんな遊び心ある里山復興を楽しみにしています。

◇Instagram『牛島民雄』
https://www.instagram.com/satoyamato_kumamoto/

◇Facebook『里山都』
https://www.facebook.com/satoyamato.kumamoto

◇山都ラボ ラボサポーター申し込みフォーム
https://forms.gle/6z4jXk7ZreNihGKs8


企画制作:合同会社ミミスマス
インタビュー:内村光希
文:中川薫
写真:上野諒