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【山都町のおしごと紹介】会社という仕組みを使って、農林業を当たり前の仕事に。『合同会社 笑顔の食卓』

山都町では、地域へのUIターン促進を目的に『やまとしごとSTORE』という事業を実施しています。
この記事では、『令和6年度やまとしごとSTORE』イベントに参加された山都町内の事業者を紹介していきます。山都町へのUIターンを検討されている方が、町での働き方や暮らし方をイメージするためのヒントになれば幸いです。

山都町のような中山間地域で最初にパッと思い浮かぶ仕事といえば、やはり農業や林業ですよね。自然に囲まれ、自然を相手にする仕事は、都市部にない魅力があります。

とはいえ、いきなり自分ひとりで農林業を始めるのはなかなかハードルが高いもの。ノウハウを身に着けて、土地を探して、道具を揃えて…とそれなりの準備や投資が必要です。

そんななか、山都町には会社員として農林業に取り組むことができる会社があります。それが、今回ご紹介する『合同会社 笑顔の食卓』です。

代表の安藤さん、スタッフの高森さん、村上さんの3名にお話を伺いました。


会社の概要

◯会社名
合同会社 笑顔の食卓
◯設立
2021年
◯従業員
20名程度
◯事業内容
林業:
・杉苗の生産販売
・植林
農業:
・ミニトマトの生産販売
(関連会社と連携して実施)

インタビュー① 代表の安藤さん

まずお話を伺ったのは、会社の代表をされている安藤さん。会社の全体像についてお聞きしました。

代表の安藤健(たけし)さん。福岡県のご出身で、飄々とした雰囲気の方です

ー早速ですが、ずばりどんな会社なのか教えてもらえますか?

安藤さん:
山都町で、農業や林業に会社として取り組んでいます。ふつうの農家さんができないことを、会社ならやれるんじゃないかと思って。
具体的には、仕事の平準化ですね。夏はミニトマト、冬は山という感じで、仕事を組み合わせて人が働きやすい環境をつくって、みんなが稼げればいいかなと考えています。
派手なことはやってないですけど、当たり前にみんなで現場の仕事をしてるという感じです。

ー会社のウェブサイトを拝見すると、本社が広島県になっていました。安藤さん自身も福岡県のご出身ということですが、山都町で現在のお仕事をすることになった経緯について教えてもらえますか?

安藤さん:
もともとは食品の輸出や輸入、商品開発などをしていました。いわゆる川下の事業ですね。一方で素材を生産する川上の事業にも興味があって、そこにコロナ禍もあって、会社として新しい事業の柱を持ちたいなと思うようになりました。
そんなときに山都町とのご縁があって、2021年から山都町で農林業に取り組むことになりました。
まずは林業から始めて、次は農業をやるために別の会社(※1)も立ち上げて、今に至る、という感じですね。
最初は5人で始めましたが、今は季節のバイトも入れると年間で100人ぐらいは出入りして働いていると思います。サラリーマンが週末にうちで農業のバイトをしたりしてますね。

(※1)
制度上の課題をクリアするために、農業については『株式会社TGCのミ』という別会社を立ち上げて取り組んでいるそうです

山都町の御所エリアが主な仕事場。なだらかな農業地帯にミニトマトのハウスがあります


取材に伺った山の現場。傾斜の大きな地形が、農業の現場とは対照的です

ー事業内容について詳しく教えていただけますか?

安藤さん:
林業と農業の2つがあります。
まず林業の方ですね。コンテナ苗というやり方で杉苗をつくって出荷しているのと、植林の仕事をしています。仕事は基本的に地元の森林組合を通してやっています。
農業は、ミニトマトの生産ですね。『笑顔の食卓』とは別の会社を使って取り組んでますが、スタッフは季節によって両方で働くという感じです。他のところと3社で連携してスタッフを融通して、ハウスを管理しています。

ー会社の今後について、何か考えていらっしゃることはありますか?

安藤さん:
今の仕事は、ゆくゆくは若手に任せていきたいですね。それで自分自身はまた次のことをしようかなと。

ー次のこと、ですか?

安藤さん:
たとえば、キルギスという国で農業法人を立ち上げる計画を進めています。自分がもともと輸出や輸入をしていたので、色んなネットワークがあるんですね。キルギスは中国やロシア、ヨーロッパのちょうど中間地点にある国なんで、色んなところに輸出をしやすいのが利点です。
実際に、現地の大学生にインターンとしてうちに来てもらって、農業の方で働いてもらったりしています。

ーはじめは「なんでキルギス?」と思いましたが、山都町が九州の真ん中にあることとある意味では似ていて、なるほどな~と思いました。お話ありがとうございました。


インタビュー② 山の現場で働く高森さん

次は林業の現場へ。現地案内の小田原さんに先導していただき、山道をぐんぐん上っていきます。

現地案内の小田原さん:
ほら、あのへんに赤い点が見えるでしょう。あの赤い点に見える彼に話を聞きたいので、あそこまで行きましょうか。

よく目をこらすと、画面中央より少し下に赤い服の人影が見えます

ようやく現場に到着。林業部門をまとめている高森さんにお話を伺いました。

高森さん。山都町出身で、笑顔の食卓の立ち上げメンバーの1人です

ーよろしくお願いします。ちなみに今は何の作業をしていたんですか?

高森さん:
うちは杉苗をつくって出荷してるのと植林もあるんですけど、今は植林の準備をしてました。

ーいわゆる地ごしらえですね。

高森さん:
はい。木を植えたり下刈りしたりしやすいように、手作業で枝をひらすらまとめて片付けてます。この現場はこれを12町歩(※2)ですね。もうしばらくかかります。

(※2)
町歩は面積の単位で、
1町歩≒100m×100m
です。
広さの表現としてよく使われる東京ドームは約4.7町歩らしいので、この現場は東京ドーム2.5個分ほどの広さになります。

夏場は自分で農業をして、冬場だけこの会社で働く方も

ー12町…!果てしないですね。では、今のお仕事に就くまでの経緯を教えてもらえますか?

高森さん:
自分はもともと山都町の出身です。今は閉校になっちゃいましたけど、潤徳小に通ってました。
それで県内の農業大学校に行って、そのあとしばらくは別の農業法人で働いてました。そこは個人の目標設定とかをすごくしっかりと求められるところで、ちょっと自分には合ってないかもな、という感じがしてました。
そのあとにこの会社の立ち上げの話があって、そこから参加して現在、という感じですね。

ーご自身と会社のあり方にギャップを感じた前職から、今の会社に変わってみていかがですか?

高森さん:
会社っぽくない感じがいいですね。自由というか。仕事の進め方も、現場の自分たちで考えて決めて、実行できるんで。こっちの方が自分には合ってました。
生活は熊本市内に比べるとやっぱり不便なこともありますけど、仕事の環境としては良いですね。人も良いです。

ーご自身のスタイルに合った働き方ができているということで何よりです。お仕事中におじゃましました。ありがとうございました。

高森さん:
はい、ありがとうございました。あ、帰りの道も気をつけてくださいね。

インタビュー③ 農業の現場で働く村上さん

山を離れて、最後は農業の現場へ。最終日となるミニトマトの収穫をしていた村上さんにお話を伺いました。

村上さん。山都町の出身で、年長のお子さんを子育てしながら働いています

ー村上さん、よろしくお願いします。村上さんはどんなお仕事を担当されてるんですか?

村上さん:
ハウスの管理全般と、杉苗の出荷に関することをやってます。今は時期的に両方やってますね。トマトの収穫は今日で終わりなので、このあとは杉苗がメインになります。杉苗は、うちはコンテナ苗という作り方をしてるんですけど、出荷するために根を切ったりとか。

ー今の会社で働くことになった経緯は?

村上さん:
子どもがまだ小さいんですけど、子どもが熱を出したりすると、職場を休まないといけないじゃないですか。前の職場では、そのへんが難しくて。子育てしながら働けるところを探してて、今の仕事にたどり着きました。

ー実際に働いてみていかがですか?

村上さん:
子どもに合わせて自由が利くのでいいですね。
夏場のハウスはすごく暑かったり、力仕事もけっこうあったりして大変でしたけど、身体が慣れたんで今は平気です。あとは洗濯物が大変かな。トマトの匂いがなかなか取れなくて…笑
いちおう、高校は矢部高の食農科学科に行っていて、専攻はトマトじゃなくて花だったんですけど。農業の基本的な知識があるんで、最初にバタバタせずにスムーズに仕事ができたのも良かったなと思います。

「終盤なんで、もうジャングル状態ですよー」と明るく笑いながらお仕事をされていました

まとめ

以上、『合同会社 笑顔の食卓』のご紹介でした。

「会社を通して農林業に取り組むことで、より多くの方が働きやすい環境をつくる」

地域の里山を活用し、守っていくためには、このような考え方も重要だと考えさせられたインタビューでした。

山都町へのUIターンを検討されている方にとって、町で働いて暮らすイメージを少しでも掴むためのヒントになれば幸いです。


企画制作:合同会社ミミスマス
取材/文/写真:内村光希