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【山都町のおしごと紹介】創業99年の肉屋を受け継いで。『肉のみやべ』宮部弘一郎さん

山都町では、地域へのUIターン促進を目的に『やまとしごとSTORE』という事業を実施しています。
この記事では、『令和6年度やまとしごとSTORE』イベントに参加された山都町内の事業者を紹介していきます。山都町へのUIターンを検討されている方は、ぜひ参考にご覧ください。

今回の舞台は、山都町の馬見原(まみはら)商店街。かつては宿場町として栄えたという古い建物や石畳の町並みが、ノスタルジックな雰囲気を感じさせます。
この馬見原商店街の入口にあるのが、今回取材した『肉のみやべ』です。熊本名物の馬刺しをはじめとしたおいしいお肉を買える場所として、多くの方に愛されています。
2025年に創業100年を迎えるこのお店で、跡継ぎとして2023年に帰ってきた宮部弘一郎さんにお話を伺いました。


会社の概要

◯会社名
株式会社 馬見原みやべ

◯屋号
肉のみやべ

◯設立
1925年

◯所在地
山都町馬見原

◯事業内容
精肉、惣菜の販売
店舗での対面販売、出店販売、卸売、給食など

◯ウェブサイト
https://298-miyabe.com/

あこがれのワインソムリエを経て家業へ

ー本日はよろしくお願いします。もうすぐ創立100年!ということで、歴史のあるお店なんですね。

宮部さん:
はい、曽祖父が1925年に始めたお店ですね。わがやはもともと甲佐町の方だったんですけど、曽祖父が親戚を訪ねて馬見原へ来たそうです。馬見原に『まつなが』という肉屋(現在は閉店)があって、そこが親戚筋にあたるところで。ここに薦められて、肉屋を始めたみたいですね。
昔は椎葉や諸塚(山を隔てた宮崎県側の村)の牛の質が良いということで、牛を買い付けるために3日かけて、歩いて行って、牛を牽いて帰ってきていたと聞きました。

30年前に移転した現在の店舗

ー椎葉まで歩いて!昔の方の苦労が偲ばれますね。では、そんな『肉のみやべ』に宮部さんが帰ってきた経緯を教えてください。

宮部さん:
県内の高校を出て、大学は関東に行きました。大学に進学したのとちょうど同じ時期に、料理人の叔父が東京のレストランに呼ばれて働くことになりまして。私も同じところでアルバイトを始めました。結局、就活せずにそのままそのレストランに就職して、10年働きました。
それで、そのレストランの上司でワインソムリエの方がいたんですけど。その先輩に憧れて、私もソムリエを目指すようになりました。ジャケットを着て、(ソムリエの証である)ブドウのバッジを着けて、他のスタッフやお客さまから頼られている姿がカッコよかったんですね。ソムリエの勉強を始めて、5年かけて資格をとりました。
帰ってお店を継ぐことを決めてからは、まずは熊本市の肉屋で1年働いて勉強して、それで2023年の10月に帰ってきましたね。

ーワインソムリエの資格も持っていらっしゃるんですね!今の仕事にもなにか活かされてますか?

宮部さん:
ワインソムリエの資格は、活かしきれてないですね…笑 最初はお店でワインを売ろうと考えたんですけど、このあたりの消費量を考えると難しくて。ワインの講座でもやりたいなとは思ってます。

地域の事業者として、要望に応える

ーでは、次に現在のお仕事について教えてください。1日の流れはどんな感じでしょうか?

宮部さん:
まず朝8時にはお店に行って、商品を整えたりします。
午前中は注文に応じて惣菜や弁当をつくったり、商品を配達したりします。
午後は接客対応をしつつ、肉を仕込んでいきます。肉の仕込みは、不要な油を落としたり筋を取ったり、小分けして冷凍したりといった作業ですね。あとは翌日以降の準備をしたりして1日が終わります。
時期によっては月1~2回ぐらい出店販売もしているので、そのときはまた別の動きになりますね。

美しく整理された商品が並びます

ーお惣菜の種類も多いですよね。どのように商品開発してきたんでしょうか?

宮部さん:
精肉を売るだけじゃ、今はなかなか難しいですからね。時代に合わせて商品開発をして、売り方の工夫をしてきました。

加工の仕方、伝え方にも様々な工夫をされています

ー惣菜だけでなく、お弁当もつくってるんですね。

宮部さん:
近くの病院から注文が入ったときは、つくって持っていきますね。他のお店だとどんどん対応が難しくなっちゃって。

ー地域のニーズに対応するというのも役割の1つなんですね。若手の宮部さんが帰ってこられて、きっと周囲からも頼りにされているんですね。
商品の売り方について、今のお客さんの傾向はありますか?

宮部さん:
良いものは買われる時代だと思います。うちは良い肉を扱っているので、リピーターの方がわざわざお店まで来てくれたりと、お客様に選んでもらえてますね。

宿場町の街づくり

ー地域との関わりはいかがですか?先日も馬見原公民館で落語の講演会があったりと、馬見原では色々な取り組みが行われていますよね。

宮部さん:
落語会は馬見原のまち協(まちづくり協議会の略)で取り組んでいます。
はじまりを話すと、私の父が落語好きで。父が街づくり協議会の会長のときに猛プッシュして(笑)実現しました。落語家の柳家家禄さんも馬見原を気に入ってくれて、それからずっと継続してきたんですけど、コロナの影響でしばらくやれてなくて。今年は5年ぶりの開催でした。 

2025年11月に開催された落語会のチラシ。今回で第10回目となる

ー街づくり協議会での取り組みだったんですね。馬見原では他にどんな行事があるんですか?

宮部さん:
夏の『火伏地蔵祭』と年始の『初市』があります。昔はいろんな町で初市があったんですけど、今ではやるところは少なくなりましたね。
他には、今年はまち協で『夜市』を企画してやりました。地元に人が集まる機会を増やしたくて実施したんですけど、思ったよりも大盛況で。みんな地元に出る場を求めてるんだなと、ニーズを感じましたね。夜市は今後も実施する予定です。

田舎の仕事は儲からない?

ーお仕事だけでなく、地域でも色々と動かれているんですね。仕事の話に戻りますが、お店としてこれから取り組みたいことはありますか?

宮部さん:
店の改修をしたいですね。今は販売だけなので、お客さんが肉を食べられるようなスペースをつくりたいです。2025年中に完成、いや着手かな。動いていきたいです。

ー設立100年に向けて、という感じですね。最後に、これから山都町にUIターンしたいという方に向けて、メッセージをお願いします。

宮部さん:
田舎でもお金を稼げる仕事があるということを伝えたいですね。田舎の仕事は儲からないと思われやすいんですけど、肉屋はちゃんと稼げます。(熊本市など)どこでも1時間で行けるんで、暮らしの不便もないですし。

まとめ

以上、『肉のみやべ』宮部弘一郎さんのインタビューをお届けしました。
曾祖父さんの立ち上げた歴史あるお店を継承して、仕事に対して真摯に向き合っている姿勢が印象的でした。
地方移住というと暮らしの側面ばかりが注目されがちですが、小さくてユニークな職場で自分にしかできない仕事に取り組めるという仕事の面でも、地方の魅力が感じられたお話でした。
「人の役に立っている実感がほしい」「自分の裁量で仕事を進めたい」という方は、ぜひ地方での仕事を検討してみてください。

企画制作:合同会社ミミスマス
取材/文/写真:内村光希