【山都ラボインタビュー】山都町で育む”大きな木”。人にも地球にもやさしいアイス屋さんを:藤川里奈さん
山都町の人材育成事業『チャレンジ・応援!山都ラボ』では、山都町をフィールドに自分でプロジェクトを立ち上げて楽しみながら活動する町内外の方を『プロジェクトオーナー』としてサポートしています。
今回の記事では、令和4年度からプロジェクトオーナーとして参加し、その後も山都町で活動を続けている藤川里奈さんを取材しました。
プロフィール
名前:藤川里奈
出身地:山都町
居住地:山都町
プロジェクト:
日本一地球と身体に優しいアイス屋さんを作って、山都町がエコタウンになる第一歩にしたい!
山都町の下矢部東部地区出身の藤川里奈さん。中学を卒業後は高校、大学と熊本市内で過ごし、その後は東京でアパレル関係の企業に就職しました。その当時のことをこう振り返ります。
藤川さん
毎晩帰宅は22時頃、日付を越えて寝るという毎日で、「ずっとこの生活ではないな」と感じていました。そのタイミングで友達から「アメリカ横断しよう」と誘われたことがきっかけで、仕事をやめて旅に出ることに。アメリカ横断が終わったら、ついでに一人で世界一周しました。
気の赴くままに異国を歩き、宿を取って、次の行き先もその場で決めて飛行機のチケットを買う。そんな経験が、藤川さんの中に眠っていた感覚を次々と呼び起こすことに繋がっていきました。
藤川さん
健康志向の国を見るなかで、食、暮らしについてのめり込むようになりました。そこでビーガンアイスやスイーツにも出会って。
世界の国々から受けた刺激は、食や環境についての意識へと広がり始めました。エコ先進国では数々のハッとする体験をし、「自分の方向性はこれだ」というインスピレーションが湧いたといいます。
藤川さん
バリ島では梱包せずに商品がずらっと並んでいて、それがすごくきらきらと輝いて見えました。ロンドンでは、多くのカフェでミルクを選べるオプションがあって、ミルクの種類だけでもソイ、アーモンド、カシューとか「選択肢があるっていいな」って思ったんです。インドでは、八百屋でたくさん買い物をしてバッグが必要になると、新聞紙でかわいい入れ物を作って入れてくれたり。
世界の旅で経験したのは、決して大きな出来事ではなく、どれも日常の暮らしにある一つひとつの小さな気付きでした。今まで思いもしなかったチョイスが世界にはあって、それが当たり前の暮らしがある。さて、自分はどうしたいだろう。
そんな思いで帰国した後は、東京のビーガンカフェでの経験を経て、コロナ禍突入も後押しして2020年に山都町へUターンしました。
今になって浮かびあがる、幼い頃の祖父母の姿
藤川さんは令和4年度の山都ラボプロジェクトの活動として、山都町下市にあるコーヒーショップ「Appartement(アパルトマン)」内に、アイスクリームショップ「ARBOL(アルボ)」をオープン。Appartementのオーナーである齊木龍一郎さんとはなんとも言えぬ絶妙なコンビネーションで、訪れた人に「また来たい!」と思わせるような、柔らかな空気感が店内には漂っていました。
アイス屋さんを山都町でやるということに対しての思いを伺うと、「山都町ということが、私にとってはめっちゃ大事」「最近おじいちゃん、おばあちゃんへの愛がすごくて(笑)」と、巡りめぐって幼少期の話へと繋がっていきました。
藤川さん
小さい頃は両親ともに共働きで、学校から帰ってきた時間や夏休みなどはほぼおじいちゃん、おばあちゃん、ひいおばあちゃんと過ごしました。その日常の風景、夏休みに「ニラ採ってきて」と言われて採ってきたニラで卵焼きを作ってくれたとか、冬になるとたくさん採れる大根をきれいに並べて切り干し大根を作ってる姿とか、山菜が当たり前に食卓に出てきたりっていうのが、今になって染みてくるんです。
祖父や祖母が暮らしの仕事をする姿。当時はなんとも思わなかったことが、大人になった今、鮮明に思い出される。それは紛れもなく、自分が何に温かさや喜びを感じ、何を人に与えたいか、そんな核をつくった原体験ともいえるのではないでしょうか。
藤川さん
今は、じいちゃん、ばあちゃんが植えた柚子や柿、ブルーベリーを摘みながら幸せを感じます。アイスを作るようになって「もうちょっと聞いておけばよかった」と思うことがありますね。
古くからの山都町の暮らしを支えてきた作物や、息づいてきた丁寧な手仕事を引き継ぎ、大切にして残していくことも、若い世代の大きなミッションの一つかもしれません。
藤川さん
山都ラボに参加していなかったら、こんなに早くに店舗をオープンしてなかったと思います。当初はオンライン販売でいこうかなとかいろいろ迷っていたけれど、気が付いたら山都ラボに応募して、店舗を作るってなっていたから。
プロジェクトとして「やります!」と公言したからこそ、周りの人の期待を力に変え、自分を後押しして加速するいい機会となったようです。
それにしても「気が付いたら応募してた」という言葉が、なんとも藤川さんらしい。頭で考えるのは後、まずはやりたいことに真っ直ぐ進むその天真爛漫さが多くの人の心に染み入って、齊木さんをはじめ、たくさんの仲間に支えられている今が伝わってきます。
迷いはない。ただできることを掘り下げ、発信していく
藤川さん
(各地を転々としていた)回遊魚的な暮らしが、田舎の町ではコンプレックスに感じた時期もありました。私としては信念を持ってやっていても、フラフラしているように見られてしまう。それもあって「ちゃんと名前を掲げて、ブランドをつくろう」と思ったんです。
お店の名前となっている「ARBOL(アルボ)」はスペイン語で“大きな木”という意味です。山都町に根を張って、ずっとこの地の自然と共にあり続けたい。ARBOLがマザーツリーとなり、この大きな木を中心とした森をこの山都町で広げたい。そんな願いを胸に秘めています。
そんな藤川さん、これまではただ「やりたい、やろう!」という気持ちで進んできましたが、最近はより大きな社会の仕組みや経済にも意識が向いてきたといいます。
藤川さん
仲間と話していた時に、「環境を守る活動が世間一般(そこまで環境保全に意識を向けていない人たち)には少し異質なものに見えてしまうよね」という話が出たことがあって。「なんかやってるな」くらいで周囲に響いてない気がしてきて、そこから考えが変わってきました。
例えば私のお店の商品を買うことで、自然と環境に関心を持つような。今このお店の中でできつつある流れを、もっと大きくしていきたい。そのためには、自分がいなくても商品やお金がきちんと回る仕組みができれば、そこで生み出せた利益を大きな何かに投資できるんじゃないかという長期の目標が見えてきました。
手元で完結しない、大きなビジネスの歯車へ。
新しいステージに上るため、リスクや不安もあるかと思えば、
藤川さん
不安はない。期待の方が大きいです。今できることは、アイスを通して季節の手仕事や山都町の良さを掘り下げて、吸収して、全国に発信すること。その中で新たな知識や、次にできそうなことが見つかるだろうな。
今はまだはっきりとわからないけれど、いずれ見えてくる。
その清々しいまでの笑顔を目の前にしてお話を聞くなかで、藤川さんに新しいキャッチコピーができました。
“行き当たりばっちり!”
そう、どんな道を通っても、どんな壁にぶち当たっても、きっと大丈夫。
そう思わせてくれる笑顔こそが、この大きな木のエネルギー源です。藤川さんが大切に育てていくマザーツリーはきっと、山都町をもっと豊かな森にする仲間たちを引き寄せていくはずです。
◇ARBOL オンラインショップ
https://arbol-yamato.stores.jp/
◇instagram @arbol_icecream_sandwich
https://www.instagram.com/arbol_icecream_sandwich/
◇Facebook ARBOL -Dairy Free Icecream-
https://www.facebook.com/profile.php?id=100083466543973
◇山都ラボ ラボサポーター申し込みフォーム
https://forms.gle/6z4jXk7ZreNihGKs8
企画制作:合同会社ミミスマス
インタビュー/文/写真:中川薫